こだわりと塩と | 綿菓子屋此処似候

こだわりと塩と

 回転寿司で握りを塩をつけて食べてくださいと言われた。で、食べたけど、際だつはずの味の違いがわからなかった。

 福井の若い人のやっている蕎麦屋は蕎麦に塩をつけて食べさせられた。しょっぱいだけで、蕎麦の風味を損なうことなく感じることはなかった。

 血圧が高めで日頃から塩を抑えめにしていると、少しの塩でも辛さに敏感になって他の味がわからなくなる。

 店主のこだわりがあると同じように、客側にも勝手なこだわりがある。両者がうまくマッチすれば最高の味でも、はまらなければ困ったことになる。こだわられると、一見の客には実は迷惑なことが多々ある。

 岐阜県坂祝町の深萱ふーどには奥さん手作りの座卓が並べられている。これがちょいと低い。足を組んでいるとしびれるし、足を延ばす余裕がない。
 隣の客が足を横に投げ出して食べていたので、マナーがなってないと内心腹を立てていたのだが、食べ終わる頃には私も同じ格好をしていた。
 廃材を利用した立派な机で、高さは女性にはちょうど良くても、いささか困ってしまう仕様だった。
 もちろん店主のこだわりは店作りにも蕎麦にも相当あるようだ。店内に置いてある分厚いパンフレットにはその一部始終が書いてある・・らしい。残念ながら伝わってこないことも多い。

 名古屋名東区引山の志蕎庵 江月もまたこだわりで他の店との違いをアピールする店だった。

 蕎麦屋で天ぷらを名物にしている店が多い。蕎麦がさっぱりしているから、天ぷらや鴨肉などが合うだそうだが、味音痴の私にはわからない。
 それでも天ぷらの盛り合わせがついてくるセットにしたら、天ぷらには天つゆが出てこなくて、塩がついてきた。困ったものだ。塩をつけて天ぷらを食べたくない。天ぷらだけで何もつけずに食べると、つまみ食いしているようでむなしい。
 ついでに書いておくと、蕎麦つゆは極端に少なく、ギリギリに蕎麦を食べられる程度にしか与えられなかった。

 さらに、ひとりがかき揚げ丼とのセットを頼むと、バラバラにほぐしたかき揚げがご飯にのっかっていて塩がふり掛けてある。丼に楽しみな天つゆはない。つゆだくではなく、つゆなしだった。店主の塩に対する強いこだわりと信頼は尊敬できても、「天ぷらの残りかすに塩をふった賄飯を食べさせられた」と怒りたくなる通りすがりの客の気持ちも頷ける。

 で、蕎麦の味はというと・・・、ココで何度も繰り返しているように、蕎麦を食べ歩いてはいるが、蕎麦の味はわからない。
 深萱ふーどには数回通ったが、結局わからずじまいだった。江月もそのわからない側の蕎麦の味だった。たぶん何回行ってもわからない味のままだろう。

 店主のこだわりとのミスマッチは決して店側に責任を問うべきではなく、ただその気持ちが、こちらの貧客には伝わらなかったことがとても残念だ。